山割り

松本市洞


安曇野穂高近辺ではわかりやすい例がなかったので松本市洞地区で引き合いに出します。

夏場の緑の濃淡だけでは山にはどんな樹々が生えているかなんて、さほど気に留めませんが、紅葉のこの時期は山の植生を知る絶好の季節となります。

特に私有林の山肌です。まるで、あぶり出しのごとくパッチワークのようなつぎはぎ模様が現れます。

「民有林」とは、「国有林」に対義する区分で都道府県所有の公有林や法人や個人の私有林がこれに当たります。その面積割合は国有林3割に対して公有林1割、私有林6割、合わせて民有林は全体の7割になります。山奥の国有林に対して私有林は居住地に接する里山を中心とする分布となっています。

上の写真を森林計画図と照らし合わせてみます。

林班図 松本市洞

写真では、小山の左にカラマツ林があり、真ん中に広葉樹の混じった若いヒノキ林、右の尾根筋にアカマツが分布し、その下にコナラの群落が占めています。地図を見るとその通りに境界が一致しています。

森林計画図は通称「林班図」と呼ばれ、樹種ごとに線引きされた 区分を地形図に落とし込んだものです。およそ50ヘクタールを平均として数字を振り分けた大きな林班の中を「い、ろ、は、に、、」で小林班に分け、さらに数字で細かく区切っています。
本来ならどこに何が生えているか、自然林の植生や人工林の樹種を把握するためのものですが。民有林の、特に面積の小さな個人所有の私有林において、林班図は山林の所有境界を示すものにもなっています。面積が小さくても個人がそれぞれ違うものを植えたり、植えなかったりするものだから、上記の写真のような自然の姿ではあり得ない山の模様になるのです。

その昔、燃料や飼料採取などの入り会い地だった山が、その役目を終えて住民たちに均等に分けられた事や、畑や田んぼだった山中の土地が放置されて森林化したり、させたりした結果でしょう。まだ材木が売れた頃には皆競って木を植えました。史跡である山城にも土地が個人所有であれば木が植えられました。文化遺産の継承など微塵もなく、儲け話が先行するそんな時代でもありました。
人しか通れない山道の奥に、材木の搬出を考えないまま今、木が大きく育っています。

松本市稲倉

それは自然に対し人間が過剰に介在した結果とも言えます。人間の勝手な注釈を加えるだけではなく、禍根を残すことにもなりました。
とはいえ、里山の再生は地域に住む私たちのみならず地続きでつながっている多くの人々の希望でもあるのです。
人間主体の里地里山論ですがそこまで戻らないと忘れてしまったものを思い出せないからです。

ぜひ、山割りを見るたびに環境を考え直してほしいものです。

分断をもたらす所有の意識を離れて、山は人々の共有の財産であることを。

(2020年別サイト掲載を修正再掲載)