宮ノ平
去年の夏に、とあるサイトに書いたものですが少々加筆修正し、転載してみます。
今回で都合3回目の大峠に関する探検です。上の写真は大峠そのもの。乗っ越しの部分です。倒木やら笹やらで分かりづらくなっていますが。幅も高さも3〜4mほど掘り崩されて道が出来ています。林道北沢線の峠から300m北に分け入った所に地図通りに存在していました。
今回は峠から戻るように下り、600〜700m行った所の平らな場所を探険しました。
昔の道の痕跡を探しながら沢筋を下って歩くこと約40分。シダ類の繁茂する河岸の向こうに陽の当たる広い場所が見えます。目的地に着いたようです。
そこは周りの谷から押し出されて土砂が平地を作り、草本類が繰り返し堆積した湿地帯になっています。
背丈ほどもある草たちで覆われていて足下には隠れて細い水の流れが何本もありました。巨大化したイタドリやバイケイ草、セリやトリカブトの仲間など想像していた以上に草が厚く生命力に溢れています。だからでしょうか植物ではない生命の気配も感じました。
至る所で草が押し潰されています。最初は山菜採りかと思いました。それにしては不必要になぎ倒されていて、まるで大きなものがゴロゴロ転がった様な跡の付き方です。時々瞬間的に臭う獣臭と。
イタドリの茎があちこちで食いちぎられています。
これらの仕業の主が「クマ」であることは間違いないでしょう。
大声を出し、鈴を鳴らしながらしかし、歩きやすいのでクマの通った後を進みます。幸いクマたちは既に逃げ去ったのか最初から留守なのか出会うことはありませんでした。
二色の糞が並んでいます。同じクマのものかそれとも連れグソか?鉈ですくって匂いを嗅いでみます。思ったより匂わず。粗食なのか?あるいは日が経っているのかと色々推測します。クマにとっては要らない排泄物ですがそこからはたくさんの情報を取り出せます。
(湿原の下流の立派なサワグルミ)
地図上ではこの湿原の際を通って道があったはず。ですが谷の斜面からは笹が押し寄せてきて行く手を阻みます。気が付けば湿原の中をぐるぐると堂々巡りしていました。
草丈が高いのが難点ですがそれはこの時期だけのこと、おそらく誰が見てもこの場所を気に入ることでしょう。テントを張って何日か滞在したいと思いました。
平地で陽が当たり見通しがきいて水が流れている。人の好む条件が全て揃っています。
ただし、クマが出没することを除いてですが。
今度は草の枯れる秋か雪の残る春にでも来てみようと思います。
その昔、中房湯治の人々も、ミョウバン運びの牛方たちも、ここを通る度に特別な思いでこの地を呼んでいたに違いありません。
その名は「宮ノ平」。
安曇野市耕地林務課の方から教わりました。由来までは分かりません。しかし、その名前からは多くの往来と人の賑わいがあったことをうかがわせます。
さあ帰る時間です。
湿原から先は水のない礫だらけの北の沢本流が道のように続いています。大雨の降る度に押し出されて石が均一に沢を埋めています。昔の道は深笹の中、探りながら藪こぎをして行くほど時間も気力も失くしました。今日はこの沢を詰めて大峠へ戻ります。